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隠密の華
第4章 三
昔から私は、どんな状況でも冷静で顔に現れなかった。それが惜別の別れでも、無情に見えても。実際は胸を抉られる様に悲しんでいるのに、相手には反対に伝わる。
「おおっ、これはこれは!凄い貧乳っぷりだ!つーか、抉れてるんじゃねーか!?これは紫水(シスイ)様も気に入るぞ……!なぁ、ねーちゃん!」
「黙れ、貴様。お前の胸を抉ってやろうか?」
「……すいません」
……行かなければ。
明け方、鳳凰山の火凰国側麓へ立ち、睨み付けていた商人の男の後を追う。両手は前で縄により縛られたまま、商人から引かれ、どう見ても捕虜だ。このまま山を越えるまで、暴れないようにしなければ……。隠密だと気付かれてもいけない。
「……で、それは誰なんだ?」
「追加だ。その女と一緒に、紫水へ届けてくれ」
そして、これも……。商人の男と再び黒い布で顔を覆い隠した設樂様の会話を聞きながら、私は後ろへ視線を送る。私の後ろを歩く、同じ様に両手を縛られている桐の方へ。
「女よりもこの男の方が特上品だ。紫水は容姿端麗で可愛い男を一番好む。確実に届けろ」
「……分かりました」
桐も二人の会話を、内心ハラハラしているような顔付きで聞いていた。