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終止符.
第16章 愛しい人
師走に入ってから、街は一段と華やかに彩られ、夜は家々に飾られたイルミネーションが、冷たく寂しい路地の静けさをいくらか和らげてくれた。

奈緒は今年も寒い冬を一人で迎えていた。

去年も今年もそして来年も、同じように寒い冬を迎えて春の訪れをじっと待つ。

冷たく寂しい部屋に帰り、冷たいベッドで眠る。

冬になると、一人の寂しさが一段と身に滲みた。

純の温もりを、身体はもう覚えていなかった。
幸せに過ごした数日は遠い過去になり、激しく求められた身体は欲望を忘れたかのように冷えきっていた。

ただ、雨に濡れた純の横顔だけは今も奈緒の胸を切なく締め付けていた。

もう、素敵な女性に出逢えただろうか…


そうあって欲しい、けれどもそれを知りたくはなかった。





同僚の知佳には、どうやら恋人と呼べる相手ができたらしく、時々メールをチェックしては嬉しそうに頬を赤らめたりするようになった。

千秋は母になり、沙耶の結婚も決まった。
純の父である藤田俊之は病で亡くなり、篠崎がその跡を継いで、新しい会社の顔になった。

奈緒の実家では妹が結婚し、弟は一人暮らしを始めた。

奈緒の周りは動いていた。

川の流れの中にあって、それを見送るだけの大きな岩のように、奈緒はポツンと頑固に同じ場所に佇んでいた。



今日も奈緒は知佳と二人で20日締めの取引先の納品書をまとめ、請求書を送付する為に封筒に切手を貼っていた。


「奈緒さん。」

「なあに?」

「今年のクリスマスの予定は?」


奈緒は手を休めて知佳を見た。


「それを私に聞く勇気に拍手をあげるわよ、うふふっ…いつもと変わらないわ。」

「…結婚しない主義ですか?」


さらに知佳が突っ込んだ。


「知佳ちゃんたら…」


「えへへ、ごめんなさい。…でも、みんな不思議がってますよ。ほら、ウチっておじさんばかりじゃないですか…、みんな奈緒さんの事、自分が独身だったら放って置かない、って言ってますよ。」

「あらそう、嬉しいわ。…まぁ、縁がないのと、タイミングの問題かもしれないわね。」

「そんなもんですかねぇ…」

「今はタイミング的にどうですか?」

「さあ…タイミング逃しっぱなしだから、もうよく分かんないわ。うふふ…」

「縁とタイミングかぁ…」


知佳がそう言い、二人は止めていた手を再び動かした。
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