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終止符.
第16章 愛しい人
「私、ちょっとお茶を入れてきます。」


知佳は小さくそう言って、いなくなってしまった。

奈緒は俯いて膝に置いた両手を見つめ、純は目の前の奈緒を見つめていた。


「…どうしてここが…」


俯いたままで奈緒が聞いた。


「奈緒さんがいなくなって…僕は…自分を見失いました。」

「……」

「理由も分からず、それを聞きたくても連絡すらできない…奈緒さん…、僕はあなたという希望を失った…」


静かに話す純の言葉は、奈緒の心の奥深くに痛みとともに注ぎ込まれていった。


「手当たり次第にあなたの行方を聞いて回りました…大家さん、沙耶さん、千秋さん…篠崎さんにも…」

「………」

「程無くして沙耶さんが、あなたから連絡があったと教えてくれました。連絡先も、それから勤め先も。」

「えっ?」


奈緒が顔を上げた。


「アパートの場所は、少し後から聞きました。」



沙耶…



「僕は、直ぐにでもあなたに会おうと思いました…でも、事情を知った愛子さんが打ち明けてくれたんです。 あなたに話した最後の会話を。」

「………」


奈緒は両手を握りしめて俯いた。


「彼女はその事を、僕と…、篠崎さんの前で話してくれました。」


奈緒は驚いて純を見た。

「えっ?」

「えぇ…、篠崎さんに、奈緒さんとの事は全て知っていたと言っていました。」

「………」

「その後、堰を切ったかのように泣きながら訴えていました。

……奈緒さんが消えたのは私のせいだわ、でもあなた達に罪はないの?
胸を掻きむしられるような思いに耐えて、裏切り続ける夫に抱かれていた私の、ささやかな仕返しが、罪だと言えるんですか?

……そう言いながら篠崎さんの胸を、何度も叩いていました。」


奈緒は両手を握りしめた。


「そして…、こんな自分でも子供が出来れば、それを支えに生きてゆけると思ったと……」

「うっ…うぅっ…ごめんなさい…」

「篠崎さんは、何度も詫びながら、愛子さんの気がすむまで叩かれていたと思います。…僕は見ていられなくて、途中で帰りました。」


奈緒は両手で顔を覆って泣いた。


「僕がどれだけあなたに逢いたかったか分かりますか?…逢って抱きしめたかった。」

「………」

「でも…僕には何もなかった…今の自分ではあなたを幸せにできないと思ったんです。」


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