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終止符.
第16章 愛しい人
「幸せになんてなれなくていい…」


奈緒が言った。


「僕はどうなるんです。僕はあなたを幸せにしたい。」

「………」

「早く大人になりたかった…人として、社会人として認められるようになったなら…そしてその時にあなたがまだ一人なら…」

「どうして私なの…?どうしてまだ私を…」


奈緒は純の目にすがりつくようにして聞いた。


「……母に似たのかな? 母は、死ぬまで父の名前を呼び続けたんですから。」


純が優しく微笑んだ。


「………」

「愛子さんは、少しずつ変わり始めました。
僕はたまにしか会わなかったんです、だから余計にそれに気付きやすかったのかもしれません。
愛子さんは篠崎さんに、わがままを言うようになっていました。」


「………」


奈緒は黙って聞き入った。


「少しずつ、二人は変わっていきました。
意地悪を言って、篠崎さんを試しているようにも見えました。 ……篠崎さんは愛子さんを包み込むように、それを許していました。

2年が経ち、3年が経ち、僕は仕事が忙しくなって、いつしか足が遠退いてしまっていた頃、藤田俊之が、……父が亡くなりました。

通夜の席で久しぶりに会った僕に、愛子さんが言ったんです。 会いに行きなさい、って…。」


「………」


純はポケットから封筒を取り出して奈緒に渡した。


「愛子さんからです。」

「私に?」


封筒を開けて中身を取り出すと、それはパソコンを使って書かれた手紙だった。


『立花奈緒さま

その後、どのようにお過ごしでしょうか?

私はあれから夫に全てを明かし、ありったけの暴言をぶつけて責め立てました。
醜い姿でしたがそれはそれでよかったと思います。夫はよく耐えてくれました。

夫はそれまで私をガラス細工の置物のように扱っていましたが、今はしっかりと抱きしめてくれるようになりました。

奈緒さん、私はいつまでも立ち止まっているわけではありません。篠崎と共に少しずつ歩き出しています。
あなたのお陰かもしれませんね。

純をよろしくお願いします。
あの子はきっと、あなたを幸せにできるはずです。

篠崎愛子』


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