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終止符.
第7章 ひび割れ
ホテルのラウンジは静かな音楽が流れ、ドアを隔てた向こう側から羽織ってきた湿った空気を、心地よい涼しさに変えてゆく。

奈緒は小さくなったアイスティーの氷を揺らしながら、篠崎を待っていた。

化粧室で口紅をひき直し、人もまばらになった事に気付いた時、すでに午前12時を過ぎていた。

篠崎が来ても来なくても、家に帰るよりはましだった。

タウン紙を手に取ってパラパラとめくり始めた時、目の前でスーツ姿の男が足を止めた。

視線を足元から上に移す。

「待たせたね。」

「部長…」

「部屋を取った。」

「えっ?」

「まだ、私と口を聞いてくれるのなら…」

「あの、こんなところを人に見られたら…」

「そうだね。まずいな…」

篠崎は奈緒の隣に腰を下ろした。

「部長、酔ってるんですか?」

「そうかもしれないな。」

「……」

「君は、いなくなるのかな。」

「……」

「奈緒。」

「部屋はどこですか?」

「10階。」

奈緒は鍵を受け取り、エレベーターへと向かった。

二人は無言のままエレベーターを降り、部屋の鍵を開けて中に入った。


「帰らなくていいんですか?」


ドアにもたれて奈緒が尋ねる。

「君の側にいたくてね。」

「なぜですか。」

「君を傷つけた。」

「平気です。」

「奈緒。」

篠崎は両手をドアについて奈緒を挟んだ。

「触れてもいい?」

薄明かりの中で奈緒を見つめる。

「……」

「都合が良すぎるか…」

「部長…」

「ん?」

「帰らないで。」

「……」

「朝まで一緒にいてください。」

「奈緒…」

初めてのわがままだった。

「お願いします。」

「…そうするよ。」

「本当に?」

「あぁ。」


篠崎は奈緒の目を愛しげに見つめ、ドアに両手をついたまま、そっと唇を重ねた。

アルコールの匂いの混ざった熱い吐息が、奈緒の身体に火を灯す。

絡め取られた舌は抵抗する機会を与えられず、激しいキスへと誘われてゆく。

「んンッ…」

「奈緒…」

強く抱き寄せられる。

「部長…く、苦しい…」

「ごめん…」

「シャワーを…」

「あ、あぁ…」

篠崎は奈緒を抱く手を離し、スーツの上着を脱いだ。

「洗うよ。」

「すぐに済ませますから。」

「私も一緒に入る。」

「……」

「いい?」


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