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終止符.
第7章 ひび割れ
「おはよう。」

朝のまどろみの中に、愛しい人の声がする。

初めての二人の朝。

髪を撫で、額にキスをしてくれる。

昨夜の激しさが嘘のように、優しい腕の中で目が覚める。

「おはようございます。」

「まだ眠い?」

「いいえ。今何時ですか?」

肩にキスをしながら彼が言う。

「7時だよ。」

現実に引き戻される。


「部長、もう帰った方が」

「あぁ。」

「わがままを言ってごめんなさい。」

「いいんだ。」

「奥様、大丈夫ですか?」

「気にしなくていいよ。」

「部長、あの…」

「ん?」

「森下さんは沙耶と…寺田さんとお付き合いしているんです。」

「…えっ?…あぁ、そうだったのか。私はてっきり……みっともない誤解だな。ごめん。」

篠崎が頭を掻いた。

「いいんです。」

「彼は…あの若い子は…」

「えっ?」

「名前はなんだったかな。」

「谷口…純です。」

「谷口…谷口…どこかで…どこだったかな…」

「えっ?」

「その名前に、なんとなく憶えがあるんだ。」

「そうですか?」

「あぁ…でも…気のせいかもしれない。」

アパートの集合ポストには純のフルネームが書かれていた筈だ。

奈緒は焦った。

隣の住人だと言っても勘繰られる事はないだろう。

でも言えない。

「同じような名前は結構ありますから。」

「そうだね。」

篠崎は起き上がり洗面所へ行った。

奈緒はベッドから離れて身支度を整える。

篠崎の携帯のバイブ音が短く鳴って途切れた。

妻に違いない。

篠崎はどんな言い訳をするのだろうか。

妻は夫の外泊が女と一緒だと、想像する事があるのだろうか。

幸せに包まれた女の日常に、さざ波を立ててみたい。

あぁ…

醜い自分にため息が出る。

「部長、出産予定日はいつなんですか?」

戻ってきた篠崎に話しかける。

「……12月だ。」

着替えながら篠崎が答える。

「もう名前は考えているんですか?」

「まだだよ。」

「楽しみでしょうね奥様。」

「なかなかできなかったからね。」

「女の子なら奥様と同じように 子 がつく名前になるのかしら。」

「さあ、どうだろう。」

「愛子って素敵ですよね。愛される子。」

「……奈緒、君はなぜ、妻の名前を知っているんだ。」

篠崎がふと手を止めて奈緒を見た。




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