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終止符.
第7章 ひび割れ
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「えっ?」
「君に教えた事はないし、聞かれた記憶もない。社内でもわずかな人しか知らない筈だけど。」
「……」
純に抱かれた日の事を思い出す。
冷たい汗が背中を伝う。
「奈緒、いったい誰に聞いた。」
「……それは…寝言で…」
「えっ?」
「だから、その…」
「まさか…」
「本当です。だって他に何があるんですか?」
奈緒は必死に嘘を重ねた。
「始めは何を言ってるのかわからなかったんです。でも、何度も繰り返して呼ぶから…」
「…ごめん。」
「いぇ、いいんです。」
「悪かった。」
「構いません。」
一晩一緒に過ごした気安さで、つい口走ってしまった言葉を、篠崎のせいにして取り繕う。
ひどく惨めな気分になる。
「奈緒。」
「はい。」
「会える機会が減ると思う。」
「はい。」
「……」
「新しい家族が出来るんですから当然です。」
「……」
「奥様を大切になさってください。」
「あぁ。」
「足手まといになるつもりはありませんから。」
「奈緒。」
「外泊の言い訳はなんて?」
「それは気にしなくていい。私を疑ったりはしないよ、信頼されてる。」
「……素敵なご主人なんでしょうね。」
「最低だよ。」
「そうですね。」
「あぁ。」
篠崎は奈緒を抱きしめて唇にキスをした。
「愛してる。」
わかってる。
「もう、言わないで。」
「どうして。」
「また、わがままを言ってしまいそうなんです。」
「奈緒。」
「そろそろ帰ってください。私は、後から出ますから。」
「あぁ、そうだね。……奈緒。」
「はい。」
「寝言のこと……ごめん。」
「いいんです。ぜんぜん平気です。」
篠崎はすまなそうな顔をして奈緒の額にキスをした。
「それじゃあ、先に行くよ。」
篠崎がドアを開けた。
「…部長…素敵な時間でした。」
「私も同じだよ、奈緒。」
「いってらっしゃい。」
「いってきます。」
何度も繰り返して来た送り出す言葉が、今日は空々しい。
篠崎は妻に嘘を重ね、奈緒は篠崎に嘘を重ねる。
後ろめたさを隠しながら、裏切り続ける。
嘘が明らかになった時の事を、篠崎は考えた事があるのだろうか。
全てを捨てる覚悟はあるのだろうか。
危うい均衡を保ちながら、いつまでこの綱渡りを続けられるだろうか。
「君に教えた事はないし、聞かれた記憶もない。社内でもわずかな人しか知らない筈だけど。」
「……」
純に抱かれた日の事を思い出す。
冷たい汗が背中を伝う。
「奈緒、いったい誰に聞いた。」
「……それは…寝言で…」
「えっ?」
「だから、その…」
「まさか…」
「本当です。だって他に何があるんですか?」
奈緒は必死に嘘を重ねた。
「始めは何を言ってるのかわからなかったんです。でも、何度も繰り返して呼ぶから…」
「…ごめん。」
「いぇ、いいんです。」
「悪かった。」
「構いません。」
一晩一緒に過ごした気安さで、つい口走ってしまった言葉を、篠崎のせいにして取り繕う。
ひどく惨めな気分になる。
「奈緒。」
「はい。」
「会える機会が減ると思う。」
「はい。」
「……」
「新しい家族が出来るんですから当然です。」
「……」
「奥様を大切になさってください。」
「あぁ。」
「足手まといになるつもりはありませんから。」
「奈緒。」
「外泊の言い訳はなんて?」
「それは気にしなくていい。私を疑ったりはしないよ、信頼されてる。」
「……素敵なご主人なんでしょうね。」
「最低だよ。」
「そうですね。」
「あぁ。」
篠崎は奈緒を抱きしめて唇にキスをした。
「愛してる。」
わかってる。
「もう、言わないで。」
「どうして。」
「また、わがままを言ってしまいそうなんです。」
「奈緒。」
「そろそろ帰ってください。私は、後から出ますから。」
「あぁ、そうだね。……奈緒。」
「はい。」
「寝言のこと……ごめん。」
「いいんです。ぜんぜん平気です。」
篠崎はすまなそうな顔をして奈緒の額にキスをした。
「それじゃあ、先に行くよ。」
篠崎がドアを開けた。
「…部長…素敵な時間でした。」
「私も同じだよ、奈緒。」
「いってらっしゃい。」
「いってきます。」
何度も繰り返して来た送り出す言葉が、今日は空々しい。
篠崎は妻に嘘を重ね、奈緒は篠崎に嘘を重ねる。
後ろめたさを隠しながら、裏切り続ける。
嘘が明らかになった時の事を、篠崎は考えた事があるのだろうか。
全てを捨てる覚悟はあるのだろうか。
危うい均衡を保ちながら、いつまでこの綱渡りを続けられるだろうか。
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