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毒蜜喰らわば
第11章 蛍庭園が引き寄せるもの
秋も深まり、街路樹の葉も散り始めたこの季節が私は大好きだ。
寒さは感じないけれどひんやりとした空気を感じながら
屋外のベンチに座って曇り空を見上げるのが好きなのだ。
茂に出会ってから5か月が過ぎ、深い関係になってからは2ヶ月が過ぎた。
会う時はほとんどが仕事帰りの夜に逢瀬を重ねるのだが、
次の土日は雅治に予定がありフリーの身なので、
私は明るい陽の下で会うことをねだった。
彼にも恋人がいるから、休日の昼間に会うことは簡単ではないかもしれないが、
ダメもとでお願いしてみると、
「実はその週末彼女は友達と旅行に出かけるんで、僕も一人なんだ」と、
偶然の一致ですんなりと約束を取り付けることができた。
「よかった!じゃあ美味しいランチを食べて、それから昼間の蛍庭園を見に行きたいわ」
そろそろ紅葉も色がついているだろうから、秋の変化を楽しみたいし、
昼下がりの蛍庭園を彼と歩きたい。
本当に好きなんだね、と蛍庭園への執着を軽やかに笑い飛ばした茂と
電話を切った後、私はなぜだか涙を流した。
・・こんなことくらいで泣くなんて、私の頭どうかしちゃったのかな?
情緒不安定ってやつ?なんかヤバそう?・・
嬉しいはずの約束が、少し怖くなってきた。
私の心は得体のしれない何かに操られているような気がする。
今は良くても、いずれ雅治を裏切っていることへの罰が与えられるのではないか。
幸せという名の山のてっぺんからいつか突き落とされるかもしれない、という
自責の念を、知らず知らずのうちに感じ取っているのかもしれない。