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梅の湯物語
第9章 梅の湯のお梅さんになったわけ
翌日お梅は母と共に梅之木町の自宅の様子を見に行った。

荒川を越えるとその景色は一変していた。

家という家は焼け落ち一面が焼け野原になっている。
まだ柱に残った火がパチパチと音をたてながら燃え、煙が燻っている。

道端に転がる焼け焦げた塊。
それが人であることに気づくのにさほど時間はかからなかった。

町中に漂う異臭。
魚の脂が焦げたような鼻に突く臭いは人が焼けた臭いだった。

梅之木町に近づくにつれ、その景色はお梅の想像を絶する地獄絵図となっていく。

隅田川には川を覆うほどの人の遺骸が重なり
無表情な人たちがその遺骸をひっくり返しながら自分の身内を探している。

真っ黒な赤子を抱いた母親が乳房を出してもう動きもしない赤子に乳を飲ませようとしている。

すれ違う人は真っ黒に煤けてどの顔にも表情はない。

あの真っ赤な空の下
煙と炎に巻かれた人たちがどんな凄惨な状況だったのか...

お梅と母は目の前の東京に言葉もでなかった。



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