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梅の湯物語
第9章 梅の湯のお梅さんになったわけ
ほとんどの家が焼け落ち、今自分がどこにいるかもわからない。

救いは梅の湯の煙突が残っていたこと。

それを頼りに歩いていった。

梅の湯に近づくと焼夷弾によって破壊された銭湯は焼け残った煙突と湯船のタイルだけが辛うじてここが風呂屋であったことを物語っていた。


「お母さん...」

隣にあるお梅の自宅は何も残ってはいなかった。

昨日荷物を少し運んだだけ...
まさか翌日に消えてなくなってしまうとは誰が想像しただろう。確かに毎日空襲はある。
でもそのほとんどは軍需工場などの軍事施設を狙ったもの。
庶民の住む都市を大勢の庶民を犠牲にして焼きつくすなどそんな非情なことは考えてもみなかった。



家族で使っていた食器が割れて転がっている。

庭の二本の紅白の梅の木が真っ黒になってそれでも立っていた。


「命があるだけで良かったと思わないとね」

母は戦地に行った父の茶碗の欠片を拾って呟いた。





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