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行こうぜ、相棒
第10章 This is the time
「ありがとうございます。あなたに縛っていただいた時、いろんなものがいっぺんに押し寄せて、胸の内に留めておけなくなりました」
「私はその心の澱(おり)を取り出す役目なのだね。良いワインを熟成させるためには時々そうやってあげることが必要なように」
エリは不意に寂しさに襲われた。
先生は役目を終え、エリの前から去ろうとしているように思えたからだ。
「嫌です」と、彼女は言った。「まだ私はあなたに抱いてもらってさえないのに」
先ほどのプレイの中で、先生は挿入をしなかった。するそぶりさえ見せず、エリを何度も逝かせただけだった。
ふふ、と先生は微笑んだ。微笑んだように見えた。
「心配しなくてもいい。きっとそのうち、君のその忘れ物をきちんと届けてくれる人が来るよ。それは残念だけど私ではない。でもこうして君にめぐり会った私は、私にできる精一杯のことをするよ」
そう言って先生は、傘をその場に捨て、エリをやさしく抱きしめた。エリも先生の身体に手を回す。
銀色の糸のような雨が、音もなく、砂浜で抱き合うふたりに降り注いだ。