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行こうぜ、相棒
第11章 It’s a Mistake
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先生が死んだことは、リエからの電話で知らされた。
進行性の胃がん。発見から逝去までわずか二ヵ月だったという。
「聞こえてる? お姉ちゃん、私の声、聞こえてる?」
リエの声が薄く、受話器の向こうから響いてくる。
しかしそれは声として認識されることなかった。単なるノイズに過ぎなかった。
うるさいな、
とエリは思った。だからワーカムの電源を切った。世界とつながるラインが、それで、途切れた。
エリはたったひとりで、座敷にへたり込んだ。
そして、混乱した。
あの砂浜での出来事の後、まだ先生に会っていなかった。
その意味では、まだ、抱いてもらってさえ、なかった。
心を開け放ち、初めてなにもかもをさらけ出した相手は、何の脈絡もなくエリの人生の舞台から退場してしまった。
さよならの一言も告げず。
ありがとうの一言も告げられず。
先生は、まるでろうそくの炎を吹き消すようにはかなく、エリの前から姿を消してしまった。
『――癌なんだ。
元気そうに見えるけど、多分あと半年。酒は飲めるけど、おでんのような柔らかいものでなくては、胃が受け付けなくてね』
あれは少しも冗談なのではなかったのだ。