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行こうぜ、相棒
第11章 It’s a Mistake
先生は自分の死期をきちんと知りながら、私の相手をしてくれたのだ、とエリは気づいた。
だから私を最後まで抱かなかったのか。
だから私を最後まで、愛さなかったのか。
去り行くことが分かっていたから。
残された私が、取り残されぬよう。置き去りにならぬよう、必要以上には立ち入らせなかったのか。
思えばエリが何もかもをさらけ出すようには、先生はその腹の底を明かさなかった。
エリはまるで、父親に甘える娘のように、成人してから初めて、誰かにすべてを包み隠さず受け渡した。先生は微笑をたたえてそれを受け入れ、そして何も批評せず、留保もなくそれを受け止めてくれた。
両親の時は喪主までつとめたエリだったが、先生の葬儀には参列しなかった。
リエはそれをエリが打ちのめされたせいだと思った。
確かにエリは打ちのめされた。
が、先生の葬儀の日は、街を離れていた。先生の知人の列に並びたくはなかったからだ。先生がどんな仲間に囲まれ、どんな社会生活を送っていたのか。そんなことには全く興味が持てなかった。
先生とエリはあの磯の見える別荘でだけつながっていた。あるいはあの銀色の小ぬか雨の降る砂浜でだけ。あるいはあの、おでんバァでだけ。
それ以外の思い出は、もう必要なかった。