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行こうぜ、相棒
第12章 Up Where We Belong
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「最後の食事ね」とエリは言った。
「まるで審判に向かうイエスの気分だぜ」柏木は笑った。
そしてふたりは、両手を合わせ、「いただきます」と言ってから朝食をとり始めた。
梅雨は明けた。
エリの自宅の窓から見える漁港には、夏の朝が訪れていた。
明日から朝鮮半島に渡る柏木のため、エリは毎日和食の献立を作り続けた。
土鍋で炊いた白米。
素揚げしたナスと豆腐の味噌汁。
だし汁と卵が半々のふわふわの卵焼き。
大根の葉の浅漬け。
メインは今が旬のトビウオを塩焼きにした。
「コメが…こんなに美味いなんて…」
はじめてエリの手料理を食べた柏木がそう言ってくれたのがうれしくて、エリは電子ジャーでなく、毎回土鍋で米を炊いて出していた。一人の食事なら、一合を一日三食でやっと食べきるのに、柏木と一緒だと一食に一合半炊いてしまう。柏木が大食漢なのは当然として、ワシワシと元気よく米を食う柏木を見ていると、エリも自然と食事の量が増えるのだ。
ナスを素揚げすると味噌汁に色がでない。そして揚げ油のコクが、風味を豊かにしてくれる。
だし汁たっぷりの卵焼きは知人の板前が教えてくれた特別な調理法で、慣れないときちんとカタチにすることすら難しい。
大根の葉の浅漬けには鷹の爪を入れて、夏の朝にふさわしい辛味を付け足して。
そしてトビウオの塩焼きはシンプルながら、旬の脂のよくのった青魚らしい香ばしく爽やかな風味をたてている。