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行こうぜ、相棒
第12章 Up Where We Belong
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「元気そうね」
と、エリはワーカムの画面に現れた柏木に言った。
「もうあの土鍋ご飯が恋しいよ」
柏木はいつもの口調で答えた。
エリは自宅の縁側に座って、暮れてゆく夕方の港を見ていた。
「こちらは静かな夕暮れよ」
ワーカムの、妙にリアルに音を拾ってくるマイクが、ソウルの柏木の部屋の外のシティーノイズを伝えてくる。
パタパタパタ、と乾いた音がした。
「いまのは?」
「ん?」
「何の音?」
「ああ、機関銃だろ? こんなのこの街じゃしょっちゅうだよ」
「大丈夫なの?」
「ああ」と柏木は笑って言った。「ここが俺の日常なんだ」
柏木はホテルの自室で、今日の仕事を終え、エリとビデオチャットをしていた。
柏木がソウルに渡って二日目。
やっとこうして、顔を見て話をする時間が持てた。
「戦争、しているのね?」
「戦争ってほどじゃない。もう政府軍もそんなに本腰を入れてないし。いまに情勢はおちつくんじゃないかな?」
気楽な声。
エリは不穏な気配を感じた。
「ねぇ、本当に大丈夫なの? 嘘ついてない?」
「大丈夫じゃなかったら、こんな通話なんてできないよ。電波妨害がかかって、インターネットのプライベート通信なんて完全に遮断される。話ができてるウチはまだ大丈夫だと思っていい」
わかった、とエリは不安を無理やり抑え込んで言った。