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行こうぜ、相棒
第6章 Englishman In New York

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「お姉ちゃんこそ、どうなのよ?」
「業務じゃないセックスのこと?」
「愛ある奴のことよ」リエも苦笑を返した。
エリは少し考えてから、答えた。
「愛があるかどうかは分からない。でも昨夜の大学院生は素敵だったわ」
その言葉の続きを、エリは否定形でつないだ。
「……だけど…」と。
テーブルのマトウダイと仔牛は平らげられ、デザートの焼きプリンをふたりは食べていた。テーブルにサーブされた時、給仕がガスバーナーで表面のカラメルを焼いてみせた。少し香ばしく、そして甘い匂いが立ち込めていた。
その青いガスバーナーの炎は美しかった。過去を呼び覚ますような、妖艶なブルーに見えた。
「何かが足りないみたい」
「何かって?」
「分かんない。分かんないから何か、なのよ」
ふうん、とリエは答えた。
「なんだか時々、男にひどい目にあわされたらどうなるかな、って思うわ」
エリの言葉に、リエは目をそらす。
ふたりの間に言葉にならない時間がよぎる。
それをさえぎるように、エリは口を開く。
「そういうんじゃないわ。あなたが“業務”でするような、ちょっとしたSMみたいな奴よ。縛られたり、叩かれたりするみたいな…」
軽いエリの口調に、リエも笑みを取り戻す。
「あのさ、エ子?」
「なに?」
「うんと年上のひと、紹介しようか?」
「どんなひと?」
「そういう“ジャンル”のひと」
ジャンル、という時に、両手の人差し指と中指を揃えて、リエは宙に“ダブルコーテーション”マークを描いてみせた。
「私は『先生』って呼んでる」
「SMの?」
「違うわ」快活に、リエは笑う。「お芝居を教えてくれる先生よ」

