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行こうぜ、相棒
第7章 No One Is To Blame
『おでんバァ』という不思議な風情のある店を指定したのは先生だ。
前回、あの海の見える別荘で会ってから、二週間が経っていた。エリから先生に連絡を取り、食事に誘ったのだった。
旧市街のランプ通りから一本入った路地にその店はあった。長く大きな一枚板を磨き上げバァカウンターとしているが、テーブル席もあり、おでんをはじめとした食事メニューも豊富なバァであった。
「縛られることに、興味がありました」
長い寄り道の末に、エリは話を本筋に戻した。「でも、そういうのをしてくれる人に巡り会うことも、探すようなこともしてきませんでした」
先生は、ロックグラスに入れたスコッチウィスキーを一口、舐めてから言った。
「それが何故、いまになって私に、と尋ねても?」
「セックスには、積極的なタイプだと思ってきました。自分自身を」
バァテンダーには聞こえている。でも彼は絶対に反応しない。エリにはそれがわかった。だからあえて、隠語で言葉をぼかすような真似はしなかった。先生にはそういう方が良い、と心の中で気づいていたから。
「でも、これまでずっと、そういう自分を演じてきた気がします。すこし淫らで、奔放な。男性の望むような女であることを。妹が、リエが業務でしているような。
けど、本当に自分が望んでいるのはそういうのじゃない気がしたんです」
先生は、何も答えず、こんにゃくに辛子をつけて、口に入れた。
エリは告白を続けた。
「妹に先生を紹介されて。でも私は主従とかそういうことには興味がないんです。ただ、物理的に縛られてみたかった。身動きの取れない感じを体感してみたかったから…」
そこまで話すと、エリはグラスに入った吟醸酒を口に含んだ。清冽な米の香りが、鼻を抜けてゆく。
「…すごく、感じてました、私。あの時、びっくりするくらい、感じてました」