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行こうぜ、相棒
第7章 No One Is To Blame
そしてバァテンダーの方を向いて、「鰯の丸干し」と先ほどとは全く違う明朗な声色で言った。
「消化に悪くありませんか?」
いぶかしがるエリに、先生は笑顔を見せた。
「嘘だよ。癌なんて。芝居だよ」
「ひどい!」
ふふっ、と咳払いのように笑って、先生は続けた。
「きみの話を聞いていたら、そんな風に深刻な自分じゃなければ、きみを抱く資格などないのではないかと思ったんだ」
何を言っているのか、と思った。
自分がこんな真摯な告白をしたのに。
今まで男性に、こんな風にからかわれたことなどなかった。今まで誰も、エリをこんな風に扱う男など、現れなかった。
カッとしながらも、エリはそこに引っ掛かりを感じた。
男?
この初老の俳優に、いま自分は初めて、『男性』を意識した。