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行こうぜ、相棒
第8章 Walk Between Raindrops
旧市街のとあるビルの最上階に、そのレストランはあった。
コロニアル風の柱、飾り窓、タイル貼りの床など、古き良きキューバの首都ハバナに実在したリストランテをイメージしたしつらえが特徴だった。ビルの最上階だというのにパティオ(中庭)と浅いプールを作り、それを囲むように客席が並べられていた。
その店の“いちばん”の時間は、なんといってもディナーの開店前だ。
時間でいうと、午後四時半。まだ明るい時間帯がよかった。日差しが、パティオのプールに注いで、水面(みなも)がキラキラと輝いている頃合い。その水を反射してランダムに光る金色の波紋が、店内の白い漆喰塗りの壁のあちこちに揺れている。
エリのテーブルに置かれたグラスにも、その光は届く。清潔な白いクロス。ひっくり返して並べられた大小のグラス、整理されたシルバー。テーブルのセンターには一輪の可憐な桔梗の花が飾られている。
クラッシュドアイスにチンザノを注ぎ、ペリエで割った軽い飲み物をエリは飲んでいる。
近づく夏の宵の気配。ひんやりした飲み物の軽やかさ。こころは浮き立つ。
顔馴染みの給仕長は糊のきいた白いシャツと黒いヴェストを着込み、黙々とディナータイムの開店準備をしている。厨房からはコック達が今夜の仕込みに追われる音がする。
そして――、