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花菱落つ
第4章 義信
「見かけぬ顔だな。新入りか」
「は、はい。本日よりお勤めをさせていただくことになりました凪と申します。あの、何か……?」
凪は突然声をかけられ、驚いて身体をびくりと震わせた。境内を行き交う人々を探るつもりが、いつの間にか清掃自体にに夢中になってしまった。
「そうか。ずいぶんと驚かせてしまったようだな。済まないことをした。わしは飯富虎昌という」
「飯富様……」
正面に立つのは義信の傅役、飯富虎昌だった。虎昌は今年で還暦を迎える老将で、信虎の時代から武田家に仕えていた。白髪混じりの髪をきっちりと結い、整えられた顎髭をたくわえている。かなり小柄ではあるがぴんと伸びた背筋は年齢をいささかも感じさせない見事な武者ぶりで、さすが音に聞こえた精鋭部隊「武田の赤備え」を率いる武将と言ったところだ。
「そしてこちらにおわすのが信玄公ご嫡男、義信様であらせられる」
飯富虎昌の背後にいたのは、武田義信だった。まさか標的の方から接触されることになるとは夢にも思わず、凪は半ば唖然として切れ長の目を瞬かせた。義信は現在二十六歳。信玄に似て小柄だが、がっしりとした体格をしている。顔立ちは母の三条の方に似たのか、勇猛な武将でありながらどことなく京風で雅な目鼻立ちだった。
「は、はい。本日よりお勤めをさせていただくことになりました凪と申します。あの、何か……?」
凪は突然声をかけられ、驚いて身体をびくりと震わせた。境内を行き交う人々を探るつもりが、いつの間にか清掃自体にに夢中になってしまった。
「そうか。ずいぶんと驚かせてしまったようだな。済まないことをした。わしは飯富虎昌という」
「飯富様……」
正面に立つのは義信の傅役、飯富虎昌だった。虎昌は今年で還暦を迎える老将で、信虎の時代から武田家に仕えていた。白髪混じりの髪をきっちりと結い、整えられた顎髭をたくわえている。かなり小柄ではあるがぴんと伸びた背筋は年齢をいささかも感じさせない見事な武者ぶりで、さすが音に聞こえた精鋭部隊「武田の赤備え」を率いる武将と言ったところだ。
「そしてこちらにおわすのが信玄公ご嫡男、義信様であらせられる」
飯富虎昌の背後にいたのは、武田義信だった。まさか標的の方から接触されることになるとは夢にも思わず、凪は半ば唖然として切れ長の目を瞬かせた。義信は現在二十六歳。信玄に似て小柄だが、がっしりとした体格をしている。顔立ちは母の三条の方に似たのか、勇猛な武将でありながらどことなく京風で雅な目鼻立ちだった。