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花菱落つ
第5章 裏切り
昨晩、三郎兵衛尉の兄虎昌の元を義信が訪れた。別にそれ自体は珍しい事ではない。虎昌は義信の傅役であり、親子のような近しい間柄だからだ。
だが、二人の様子は常とは異なっていた。義信は供も連れておらず、虎昌は部屋の周囲に他人が近づくのを許さなかった。義信と酒でも酌み交わそうとやってきた者はすべて追い返されてしまった。
二人は声を潜めて話し始めたものの、次第に会話は熱を帯び、三郎兵衛尉のところまで声が漏れ聞こえてくるようになった。人が近づくのがわかるよう、あえて襖をすべて開け放っていたのが二人に災いした。
驚くべき事に、密談は信玄暗殺に関するものだった。義信、虎昌のほか長坂昌国、曽根昌世、虎盛親子の名もちらちらと耳に入ってくる。計画はかなり進んでいるらしく、早急に信玄の耳に入れる必要があった。
やがて義信が帰り、虎昌も就寝した。三郎兵衛尉が足音を忍ばせて部屋を覗き込むと、一枚の書き付けが文机の上に残されていた。三郎兵衛尉は書き付けを手に取り、別の書き付けとすり替えた。机に近づいてよく見なければ、すり替えられたことに気づかないはずだ。
そして朝を迎えると、三郎兵衛尉は虎昌に気取られないよう早々に躑躅ヶ崎館に伺候したのだった。
だが、二人の様子は常とは異なっていた。義信は供も連れておらず、虎昌は部屋の周囲に他人が近づくのを許さなかった。義信と酒でも酌み交わそうとやってきた者はすべて追い返されてしまった。
二人は声を潜めて話し始めたものの、次第に会話は熱を帯び、三郎兵衛尉のところまで声が漏れ聞こえてくるようになった。人が近づくのがわかるよう、あえて襖をすべて開け放っていたのが二人に災いした。
驚くべき事に、密談は信玄暗殺に関するものだった。義信、虎昌のほか長坂昌国、曽根昌世、虎盛親子の名もちらちらと耳に入ってくる。計画はかなり進んでいるらしく、早急に信玄の耳に入れる必要があった。
やがて義信が帰り、虎昌も就寝した。三郎兵衛尉が足音を忍ばせて部屋を覗き込むと、一枚の書き付けが文机の上に残されていた。三郎兵衛尉は書き付けを手に取り、別の書き付けとすり替えた。机に近づいてよく見なければ、すり替えられたことに気づかないはずだ。
そして朝を迎えると、三郎兵衛尉は虎昌に気取られないよう早々に躑躅ヶ崎館に伺候したのだった。