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花菱落つ
第6章 因果応報
「偉大すぎる父を持つというのは、辛いものだな」
春の霞んだ月が室内を朧に照らしている。明かりは灯されておらず、近づいてようやく互いの顔が判るという程度だ。
「言うなれば目の前に巨大な壁が立ち塞がっているようなものだ。壁は凡人には決して越えられぬ。越えられぬならば力づくで壊すまでと思うても、あまりに頑丈すぎて壁が壊れる前にこちらが壊れてしまった」
義信は朧月を見つめ自嘲気味に呟いた。かける言葉が見つからず、凪は義信の傍らでただじっと座っていた。
「私はどうすればよかったのだ? 父が武田家当主にあるかぎり、私は父の駒に甘んじるしかないと言うのか? だが私はすでに二十七。いつまで父の手駒でいろと言うのだ!」
突然、義信は凪の白衣に手をかけた。荒ぶる心は傍らの凪に矛先を向けた。華奢な体を乱暴に押し倒し、白衣と緋袴を易々と引き裂いた。
「そなた……」
露になった凪の体を見つめ、義信は目を見開いた。
凪の股間には女性が決して持ち得ない、ある物があった。
凪は男だった。
虎昌の危惧していた通り、凪は千代女配下の「ののう」に間違いなかった。でなければ男が巫女になどなれるはずがない。凪の舞を見て信玄の間者であることを警戒していた虎昌は正しかった。
……女の振りをして、義信を騙していたのか。
女であれば大して警戒されず義信や義信正室に近づくことができるからだ。義信の胸にやり場のない怒りが沸き上がる。
「何ゆえ男がここにおる! 言え! 言わぬか!」
義信は激情のおもむくまま、凪の裸身をいたぶり始めた。嬲っている、と言ってもいいだろう。義信の心に吹き荒れる嵐が収まるまで、凪はひたすらに義信の仕打ちに耐え続けたのだった。
春の霞んだ月が室内を朧に照らしている。明かりは灯されておらず、近づいてようやく互いの顔が判るという程度だ。
「言うなれば目の前に巨大な壁が立ち塞がっているようなものだ。壁は凡人には決して越えられぬ。越えられぬならば力づくで壊すまでと思うても、あまりに頑丈すぎて壁が壊れる前にこちらが壊れてしまった」
義信は朧月を見つめ自嘲気味に呟いた。かける言葉が見つからず、凪は義信の傍らでただじっと座っていた。
「私はどうすればよかったのだ? 父が武田家当主にあるかぎり、私は父の駒に甘んじるしかないと言うのか? だが私はすでに二十七。いつまで父の手駒でいろと言うのだ!」
突然、義信は凪の白衣に手をかけた。荒ぶる心は傍らの凪に矛先を向けた。華奢な体を乱暴に押し倒し、白衣と緋袴を易々と引き裂いた。
「そなた……」
露になった凪の体を見つめ、義信は目を見開いた。
凪の股間には女性が決して持ち得ない、ある物があった。
凪は男だった。
虎昌の危惧していた通り、凪は千代女配下の「ののう」に間違いなかった。でなければ男が巫女になどなれるはずがない。凪の舞を見て信玄の間者であることを警戒していた虎昌は正しかった。
……女の振りをして、義信を騙していたのか。
女であれば大して警戒されず義信や義信正室に近づくことができるからだ。義信の胸にやり場のない怒りが沸き上がる。
「何ゆえ男がここにおる! 言え! 言わぬか!」
義信は激情のおもむくまま、凪の裸身をいたぶり始めた。嬲っている、と言ってもいいだろう。義信の心に吹き荒れる嵐が収まるまで、凪はひたすらに義信の仕打ちに耐え続けたのだった。