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花菱落つ
第7章 廃嫡
静かな部屋に、二人の荒い息遣いだけが響く。久し振りの逢瀬に、心だけではなく体も互いを求め合っているのを感じる。重ねた肌の下、脈打つ互いの鼓動が一つに重なった。二人はあっという間に果てそうになるのを限界まで堪え、触れ合う肌の温もりを惜しんだ。
やがて二人は目を交わし、一気に絶頂に至った。そのまましばしの時を過ごす。
義信はすでに精を放ってはいたものの、体をほどくのが惜しまれ、正室を抱き抱えて秘所を繋げたままゆるりと起き上がる。膝の上の重みが愛おしい。
「このまま時が止まればいい。このままそなたと心穏やかに過ごせれば、私はそれだけで満足だった」
だが戦国大名の嫡男という立場が、安穏な暮らしを許すはずがない。命を賭けた国取り合戦に明け暮れる日々が、義信に定められた人生だった。
また嫡男という身分には、自由はというものは存在しない。婚姻も離縁も、決めるのは父信玄なのだ。信玄がいる限り、義信は父の決定に唯々諾々と従うしか道はない。
「だが私はたとえ命を奪われても信念を曲げるつもりはない。己の命を持って、父の心を穿(うが)つ楔になろうと思う」
父の駿河攻めを聞き、義信は父の駒であることをやめた。父を廃し、己の心のままに生きると決めたのだ。だが、その夢は道半ばで潰(つい)えた。義信は廃嫡され、おそらくは近いうちに命をも絶たれるだろう。
やがて二人は目を交わし、一気に絶頂に至った。そのまましばしの時を過ごす。
義信はすでに精を放ってはいたものの、体をほどくのが惜しまれ、正室を抱き抱えて秘所を繋げたままゆるりと起き上がる。膝の上の重みが愛おしい。
「このまま時が止まればいい。このままそなたと心穏やかに過ごせれば、私はそれだけで満足だった」
だが戦国大名の嫡男という立場が、安穏な暮らしを許すはずがない。命を賭けた国取り合戦に明け暮れる日々が、義信に定められた人生だった。
また嫡男という身分には、自由はというものは存在しない。婚姻も離縁も、決めるのは父信玄なのだ。信玄がいる限り、義信は父の決定に唯々諾々と従うしか道はない。
「だが私はたとえ命を奪われても信念を曲げるつもりはない。己の命を持って、父の心を穿(うが)つ楔になろうと思う」
父の駿河攻めを聞き、義信は父の駒であることをやめた。父を廃し、己の心のままに生きると決めたのだ。だが、その夢は道半ばで潰(つい)えた。義信は廃嫡され、おそらくは近いうちに命をも絶たれるだろう。