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『コミックサイトで逢いましょう』―番外編―
第1章 【第一部】これより先危険につき!
(何処だろう…)
フワフワした綿雲の上に居るような足下の覚束ない感覚。同時に、柔らかくてくすぐったいような。そして、甘い香り。気持ちが落ち着く優しい匂い。
霞が掛かった頭で、うっすら目を開けると、俺の間近に天敵(!)の顔。
「ぁあ、気が付いた?大丈夫…?心配させるなよ。疲れてるのに無茶すんな。おまえって、適度って言葉を知らないよな」
「誰のせいだよ…」
余りに耿輔が心配そうに俺の顔を覗き込んでいたので、戸惑った俺は憎まれ口を聞いてしまう。
だが、それに対する耿輔の反応は俺の予想を大いに裏切るモノだった。同じ調子で戯けて返してくると思っていたのに…。
身体をギュッと抱き締められて、俺は一瞬息が止まりそうなくらい驚く。
「…そんな風に、全力で短距離を走るような真似はヤメロよ…頼むから…」
俺を抱き締めて、子供に言って聞かせるように話す耿輔。その身体から伝わってくる暖かい思いに、俺の心が微妙に揺れる。
耿輔は俺の前髪を掻き上げてクシャクシャにすると、照れ隠しのように淡いキスを額へと落とす。
耽美な感触に、頑なな俺の心が解けていくのがわかる。
堕ちていく…ホントに堕ちていくのだろうか…
全てが綿密に計算された口説きのテクニックだと知っているのに…。
どこか、こいつの罠に掛かってもいいと思う自分が居た。
《落ちて行く…曖昧なまま、どこへ行くともわからず堕ちていく》
それは、不思議の国のアリスが、ウサギを追い掛けて深い深い穴を落ちていったように。
(fin)
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「…行くんだ、どこまでも行くんだ。そうすれァ着くさ」
「どこへさ、え?」
「知らないよ。でも行くんだ」
(ジャック・ケアロック『路上』)