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【Onlooker】~サラが見たもの~
第5章 アイドルの、掟(ルール)?
※ ※
一方、仕事に向かうサラと黒木は、文字通り互いに距離を少し詰めて、ベンツの助手席と運転席という位置関係だ。
だが、それ故に以前よりもっと明確に、意識し合う事象はあるらしく。ふとした会話の突端から、その微妙な関係性を試されようとしていた。
「今日のクライアントさんは……?」
サラがそう訊ねた時――。
「ん、ああ……」
一瞬だけ口籠った黒木はその後で、少しバツが悪そうに言った。
「あのイケメン――紺野涼だ」
「!」
サラの方からしてみたら――もしかして、そうかも――という予感は確実にあった。そしてそれは、概ね良い意味での予感、ということになる。
だから、その名を耳にしてサラは、明らかにその表情を変えるのだ。
それを隣で目の当たりにした黒木はといったら、舌打ちをしようと歪めた口元を、ふっと息を吐くことで誤魔化したりしている。そうしたのは、それでは以前と同じことなのだと考えていたから、かもしれなかった。
そう――前回は、この件を切っ掛けとし仲違いをしてしまっている。
それを十分に意識していたのだろう。二人はどちらからともなく何気に顔を見合わせると、直後には両者とも顔をプイッと左右に背けた。
そこはかとなくて説明のしようもない、そんな微妙な空気がたちまちと車内を包み込んでゆく。