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【Onlooker】~サラが見たもの~
第8章 危険な、遊技?
先ほどまでのように、せめて表面上だけでも取り繕おう、というのでもない。咲花はサラへの敵意をむき出しにすると、責め立てるように“合図”とやらを求めた。
「ゆ、ゆるして……」
優男のか細い声が、辛うじてサラの耳に届いてくる。彼ら二人がそれ以上の抵抗に出ないのは、既に虫の息というまでに痛められた故か、あるいは咲花らへの恐怖心故か――それは定かではなかった。
「……」
見つめてサラは、息が詰まる想い。咲花から再度の“合図”を求められて数秒。瞬きをする一瞬の間にも、どんどんと周囲の空気は重さを増した。
最早――「やめてください」――と口にしようとする「や」の発声を以って、それを“合図”とされかねなかった。その様な殺気がビンビンと伝わり、サラに身じろぎひとつ許そうとしない。
そうして咲花は手にした出刃包丁を重力に委ね、自由落下により速度を速めたその鋭い刃先は、優男の左手のいずれかの指を造作もなく跳ね落とすことだろう。
そして咲花は、それをサラの所業と言い切るつもりだ。それが如何に無茶で一方的に創り上げたロジックであるとしても、それを貫くだけの強靭なパワーを咲花は有しているから。少なくともこの場に限って、それは絶大なもの。
結果としてサラは嫌な想いだけを、心に刻むことになるだろう。その純真ささえも、咲花により利用されようとしているのかもしれない。
「紺野さま」
「!」
「どうか、お控えください」
その声に驚き見ると、紺野が咲花(の包丁を持つ右手)に手を伸ばそうとしていたのだと、わかった。それを窘めたのが、その傍らに立つ口髭の男。しかし紺野を制止しようとする意図が現れたのは、その言葉だけではなくて。
「――!?」
その手元は白い布で覆われ見えないけれど、その下で口髭の男は“なにか”をその手に握っていた。紺野へとその先端を向けるような、そのシルエットは――?