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【Onlooker】~サラが見たもの~
第9章 委ねられる、人生?
黒木はおそらく「クドクド言わなくっていいって言ったろうが」といったような言葉を呑み込んだ上で、大きなため息を吐くと観念したようにこう話した。
「咲花さんが、なんか妙に落ち込んでた日があった。『一緒に居てくれ』と言われたから、その夜は一緒に居た。当然だが指一本、触れても触れられてもいねー。だが運悪く、二人で居るところを見つかっちまった」
「見つかったって? あの動画の“怖い男(ひと)”?」
「ま、その手下だけどな。それで報告が上がり、その“怖い男”が登場する」
「あの男って、一体?」
「店の後ろ盾になってた組の若頭。そして同時に咲花さんの男――ってわけだ」
「……」
サラは“組”という響きから“ヤクザ”であることを再確認すると、都会の繁華街という自分の知らない世界の恐ろしさの一端を感じていた。
男女の仲を疑われたことに対し、黒木が申し開きをできなかったのも、その力関係を踏まえれば仕方のないことだったのかもしれない。
あの咲花にしたところで、嫉妬に燃えた”若頭”は恐ろしかったはずだ。怒りの矛先が自分に向かないように、上手く立ち回ったのだろう。
その結果、その責めを黒木一人が受けることになり――。
「あとは想像つくな。つまり、そんな話――」
と、黒木が話しを終わらせようとするから、サラは慌てる。根掘り葉掘り聞いてばかりでなんだか厚かましい気もしているけど、まだ一番気になっている部分が残っているのだ。
「そんな“怖い男”の前で、なんであんな風に言ったの?」
「あんな風?」
「だって……刃物で脅されていたじゃん。なのに……」
「……」
その時、二人の間に横たわったのは――
『俺は咲花さんのことが――好きです』
黒木の、その言葉だった。