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【Onlooker】~サラが見たもの~
第9章 委ねられる、人生?
黒木に連れて来られた場所は、落ち着いた雰囲気のバーだった。程好い広さの店内は、そこかしこがオシャレな佇まいであり、賑わう客たちもどこか品を感じさせた。
黒木は店の奥まで進むと、静かな席を選ぶ。シンプルな丸テーブルの周りには、一本脚のスタンドチェアーが三脚。その壁側の二つ選び、黒木とサラがそれぞれ座った。
そうしてから辺りをキョロキョロと見渡したサラは、ヒソヒソ声で言う。店内には程よいボリュームで音楽が鳴っているから、普通の声でも問題はないはずでではあるが。
「ね――こんな店、よく来るの?」
黒木のイメージからしてあまり似つかわしくないと感じたわけだが、その点では案の定。
「来ねえよ。前に一度だけ、社長に連れて来られたんだ」
「えっ!? 零子さんとお酒を? それって平気?」
先ほど見事なまでに豹変したその姿を思い出し、サラはギョッとする。
「あんなの一人で相手にできっかよ。社長だって普段は気をつけてるんだろ。ただ付き合いが広いから、こんな場所は色々知ってるらしいが」
「ふーん……そっか」
「で? お前、酒は?」
言いながら、黒木はドリンクメニューを差し出す。
「私? ――も、実はまだ、あまり飲んだことないんだ」
今年二十歳になったばかり。先ほどの席でも結局、ワインを口にはしなかった。
「じゃあ、この辺のにしとけよ」
と、黒木にノンアルコールを進められるが、サラはその顔を上目使いに仰ぎ。
「俊くんは?」
「まあ、適当に飲むけど」
「じゃあ……私も、俊くんと同じやつがいいな」
このような店で二人きりという状況が、そうさせるのか。少しだけ背伸びをしたがっている自分自身に、サラは戸惑いつつもそこはかとなく昂揚していた。