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【Onlooker】~サラが見たもの~
第9章 委ねられる、人生?
「別に――なんでもいいよ」
なんの気なしにそう答えた俊太にしてみたら、その心に爪の先ほどの悪気すらあるはずもなくて。
当然「なんでもいいが一番困るのよ」という世間の主婦の気持ちなんて意識したことはなかったけれど、チハルさんの作るものなら「なんでも」美味しいからと、それが正直な気持ちであるから――だからこそ、その後の彼女の反応は意外だった。
「なんでも、いい……?」
いつも明るく微笑んでくれてる。その印象が強い俊太にしてみれば、その時に向けられた“その真顔”は、まだ見慣れぬものだった。
そして――
「わかってるのかな? 俊ちゃん……」
「な、なにを?」
「あなたのお父さんは、今夜も帰らないの。だから――」
再婚してから一年。この頃になると、父親は前にも増して家を空けることが多くなった。
「俊ちゃんが決めてくれないと、どうしていいのかわからなくなるじゃない」
「ど、どうしたのチハルさん……? そんな、夕飯のことくらいで……?」
「夕食のこと、ぐらい? そっか、本当になんでもいいなら、さ――」
そう言葉を繰り返したチハルさんは、俊太の両肩を強く掴むと顔を近づけて、こんな風に怒鳴りつけるのだった。
「昨日の残飯をお皿に盛って――それだって、文句を言わずに食べるわよねっ!」
な、なに……?
急に豹変したチハルさんを前に、俊太は唖然とするしかなかった――。