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【Onlooker】~サラが見たもの~
第9章 委ねられる、人生?
【チハルさんへ――。勝手だけど、僕はこの家を出ます。このまま二人でいたら、上手く言えないけど、たぶん……。今は一緒にいたらいけないと思うから。チハルさんがいてくれたから真面な生活ができるようになった僕だけど、それでもその僕が一人で生きてみようと思ったんだ。だからチハルさんだって、きっとできる。不安にも押し潰されたりはしない。そして、これはお別れじゃないんだ。僕が大人になった時、必ずもう一度チハルさんと向き合ってみようと思う。だから、それまで――僕も生きるから、この想いと共に――チハルさんもとにかく精一杯に生きてください。――俊太】
それをサラに打ち明け、そしてまた黒木は自嘲気味に笑った。
「ハハ……そんな風にカッコつけてみても。結局、俺は逃げたままだった。そう――身長(タッパ)ばかりは大人になっても、弱い心が今日まで向かい合うことを避け続けてきた。チハルさんとな……」
またしても弱気で自分を責めるような言葉に、サラはその時の想いを投げかけてゆく。
「そんなの、仕方がない。人なんて、そんなになにもかも背負いきれないよ。どうして俊くんは、そうやって自分ばかりを責めるの?」
十五歳の俊太が、その傷心を引きずったままに。どうやって東京の歓楽街で生き、この日のサラの前に辿り着いているのか。きっと、咲花との間にあったエピソードだって、たいしたことないって思えるほどに、這いずり泥を啜り生きて来たのではないか――?
そう感じるからこそサラは、黒木を肯定することに迷いがなかった。
しかし――それでも、黒木という男は――。
「去年、家を出てから初めて親父のところに行った。書類上の手続きがあったからで、それ以外の用はなかった。顔を合わせても、互いになんの感傷も湧かない。その程度の関係――少なくとも、親父とはそうだった」
「じゃあ……?」
「そうだ――俺はチハルさんのことが気になって『どうしてるのか?』と訊ねた。そしたら――」
「そしたら……?」
黒木は、その時の父親の言葉を、そのまま語った。