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【Onlooker】~サラが見たもの~
第9章 委ねられる、人生?
『別れてはいない。元々、籍を入れていたわけじゃないんだ。あんなメンヘラ女だってわかる前に、早まらなくてそれはよかったよ。あのマンションは墓場同然だが、本当に死なれても面倒だろう。なにより後味がよくないからな。だからたまに若い男を行かせてやってる。それで、長ければ一年はもつ。若い男の方が、音を上げるまでな。そうしてなんとか今まで、誤魔化してはこれたよ』
そして、父親は更にこう言ったのだという。
『ずっとお前のことを気にかけているらしい。気になるなら、会ってやったらどうなんだ?』
まるで他人事みたいにそう話した父親のことを、黒木は思い切り殴ってやろうと思ったという。しかし――
「思い留まったの?」
「つーか……そんな最低の男を殴る価値を感じなかった。いくら、このダセえ拳でも、それは……」
そう言って黒木は“傷とタトゥー”の左拳をかざした。
「だから、軽蔑することで見限った。親父のことは、それでよかったんだ。親父のことはな……」
そう言って宙を見つめた黒木の眼差しは、やはりチハルさんへの想いを馳せているように思えた。
「俊くん――」
その複雑な関係。離れていながら、互いを見張り合ってきたような経緯。それを前に、自分がなにかの役に立てるだなんて考えたわけではないけれど――それでも。
「私も、ここで――俊くんと一緒に、チハルさんを待つよ」
「――!」
驚いて見返した黒木に、サラは――
「いいよ……ね?」
少し不安げに、小首を傾げる。すると――
「ああ、たのむ」
黒木はそう答え、ホッとしたように微笑を浮べた。
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