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【Onlooker】~サラが見たもの~
第12章 エピローグ
その時ぼ零子は、実に穏やかに笑っていて――そして、その笑顔が示す。
彼女の歩んできたここまでの道のりに対して、一切の影も落とすものではないのだと。
「……」
紺野涼は、その空気に改めて見惚れたかのように。
おそらくそれは――在りし日の妹の幻影とも、それと重ねた白隅サラとも違う。それでいて、心の奥底ではいつも、それを求めていたのかもしれない――と。
だから暫く黙ってそれを見つめて、その後でやはり微笑みを返している。
「あの時にも言ったわね。いいの――大人だもの。いくつかのことを有耶無耶にしたって、どうせ――いつだって頭を悩ませることには事欠かないでしょう」
「まあ、そうかな?」
「ふふ、貴方って見かけと違って真面目だものね――とっても」
「ハハハ――弱い男なんだ。それでいて見えっ張りだから、どうしても窮屈な生き方になってしまう」
紺野は零子の言葉に深い気づかいを感じたものか。小さくため息を吐くと、目を閉じてお手上げのポーズを取った。
「やっぱり、零子には適わないな――ホントに」
二人は過去の場面で、いくつかの想いをすれ違わせてきていた。
それでも離れきれず関係を変えながら、現在まで至っている。大きな障壁は既に取り除かれているように思えた。少なくとも、傍から見たならば――。
今の二人の心は案外、同じことを望んでいるのかもしれない。だが”大人”あるという自覚が、互いに素直な気持ちをさらけ出すことを潔しとできない。
再び熱き思いを滾らせること、それが難しくはなくとも。だが、彼らはサラや黒木ほどは若くはなくて、大人になる過程で築かれた”己”というものを否定はすることは簡単なことではなかった。