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隷吏たちのるつぼ
第3章  第二章 遅れた服罪
第二章 遅れた服罪





 女将は襖の前で立ち止まった。

「困るわ、篭山くん。こんな……」

 征四郎に呼ばれて布団を敷いていたすぐそばでは、宴会客の中でただ一人、若さと愛らしさで目立っていた女の子が倒れていた。その弱々しい姿が呵責を誘い、去り際、恨めしげに長年来の上得意を振り返ったのだった。

「へっ、旅館なんだから部屋でエッチしても別にいいじゃねえか」
 征四郎は着物の尻を撫で、「それともお前も混ざるか? 旦那があまり構ってくれてねえんだろ」

「け、結構ですっ」

 手を払って抗おうとすると、その袖をグイと掴まれる。

「俺だってこんなボヨついたケツでヤリたかねえや。廃業したくなかったら黙ってろ。こんなチンケな旅館、ウチが利用してやんなきゃ、すぐにツブれるぜ?」

 征四郎の言葉に、女将は客足はないのに毎日鮮やかに引いているだけ虚しい唇をへの字に下げた。

 板前の婿を迎えてまで続けているこの旅館を、自分は守らなければならないのだ。夫はもう、厨房の清掃を終えているだろう。物音や声が聞こえてくる階下にいるくらいなら、事が済むまで二人でどこかへ出かけてしまおう……。

 女将は廊下へ出て膝をつき、襖を閉めた。

 悄然とした足摺りが遠ざかっていくと、征四郎は改めて入口から部屋を見渡した。薬を盛られた若い女は、意識を失った場所で身を丸めていた。

 芳賀のPCで確認した写真よりもずっと、生身の本山智咲は都会的で垢抜けていた。遅れて酒宴に入った時、あまりに可憐で、早や滾ってくる淫虐を抑えるのに困ったほどだ。

 傍らにしゃがみ、肩を掴んで表返す。

「う……」

 智咲はまだ目を醒まさなかった。

 いかにも「お嬢さん育ち」を窺わせる上品な顔立ち。

 自分だって県下有数の富豪の息子だ。財の大きさで言えば、智咲の家よりもずっと有しているだろう。

 だが智咲を見ていると、気品という点においては到底敵わないと思った。

 自分が不細工だということはよくわかっている。
 母は、父が妾としてあえて手を出したくらいだから、それなりに美しかったという。なのに自分は、本妻腹の兄姉たちに比べると断然見目が劣る。なぜこんな姿に産んだのか。不義の子を成したいたたまれなさなのか、あるいは篭山をとりまく力によってなのか、どこかに行方をくらませてしまった母を恨まずにはいられない。
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