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ヒロイン三国ファンタジー
第22章 22 呉の衰退
 劉備玄徳の死後、魂の抜けたようになっていた尚香を陸遜は辛抱強く支え、愛し、女人の装いのままそばに寄り添い抱いた。抜け殻のような尚香は彼のされるがままになり、夢か現かわからぬような日々を2年ほど過ごし、やがて懐妊する。

 新しい命が胎内に宿り、胸のむかつきや吐き気、気怠さを感じ、腹が膨れ内側から蹴られるような衝撃が彼女を現実に引き戻す。

 その頃にはもう劉備の存在は薄れ、陸遜の辛抱強い愛情に気持ちは応えていた。しかしそれをなかなか素直に表現するには彼女の自尊心が許さず、無反応な態度から、反発するような態度をとってしまっていた。それも息子の陸抗が産まれて終わる。

 尚香が産気づいてから何刻も立つが一向に生まれる気配がせず、陸遜は部屋の外でうろうろと落ち着きなく歩きまわしていた。
そこへ大気を震わすような赤子の、破裂音にも似た叫び声が聞こえた。

「旦那様! お産まれになりました!」
「よし!」

 陸遜は尚香をねぎらうべく彼女の側に駆け寄る。憔悴しきった青白い顔ではあるが、肌は輝き、瞳は喜びに満ちている。

「尚香……。大変であったな。よく、よく頑張った。ありがとう」
「あなた……」

 産婆から「御子息です」と赤子を抱かされ、陸遜は人目をはばかることなく歓びの涙を流し「私の跡継ぎである」と天に寿いだ。



 それから12年の年月が流れ、息子の陸抗は父の陸遜によく似た聡明さと、母の尚香に似た実行力を持ち合わせ、各地の名士から注目されていた。彼の成長と共に尚香の意固地な態度は緩和されていく。
そして陸遜も女人の装いをすることはなかった。
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