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浦島と亀
第1章 亀の想い
――あんなに色気があるのにもったいない。
浦島の横顔を見つめながら、あたしは今日も桃色の溜め息を吐く。
活気に満ちた朝の浜辺。
夜明け前から漁に出ていた男たちが次々に帰って来て、水揚げした魚を女たちが選り分けて運んだりさばいたりしている。とれたての魚介を買いに来る客も入り混じって大変な賑わいだ。
あたしみたいな商売女には本来なら縁のない場だけれど、誰の目も気にしないで浦島だけを見つめていられる機会は、この時間帯の浜辺にしかない。
魚を求めて訪れたようなふりをして、目は浦島を追い続ける。
それは、もはや日課になりつつあった。
漁師の浦島は母親と二人暮らしで、とても親孝行な男だと聞く。
女とまともに話すことが出来ないらしく、二十をいくつか超えても独り身だった。世話する者がいても断り続けているとか……
でも、浦島の容貌は特別だ。
海で焼けた褐色の肌と上背のあるたくましい体に、ひどく整った顔が乗っかっている。
そしてなぜか、若い娘だけでなく年増女も魅了するほどの色気がある。
寡黙さや、どこか翳りのある雰囲気がそう見せているのかもしれない。
まじめな働き者でこれだけの容姿なら嫁の来手などいくらでもありそうなのに、女に話しかけられると逃げ出すほどなのだという。
なにか深い事情でもあるのではないかと、あたしは睨んでいる。
あの悩ましげな翳りも、そこから発しているものなのではないかと思うのだ。