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浦島と亀
第1章 亀の想い
 あたしは港の宿屋おかかえの酌婦で、漁師や船乗りとかりそめの関係を持つことはあっても、嫁にもらわれることなんかありえない卑しい身分の女だ。

 だけど、八つで売られたあの日から、人を見る目だけは養ってこれたと思う。
 店で大きな顔ができるのも、女将さんやお姐さんたちなど、付くべき人を間違えなかったからだ。
 馴染みの客の中には妾にしてやると口説く者もいるが、うまいことを言って幾度か抱いたら素知らぬ顔で離れていくだけなのが目に見えている。
 あたしみたいなすれっからしを本気で身請けしようなんて馬鹿はいない。誰も本当の名前で「お亀」とは呼んでくれず「亀吉」という玄人名でしか呼ばない。男たちが求めているのは亀吉だけなのだ。

 時には甘い言葉にだまされたふりをして身を任せるのだけれど、男たちは自分の快楽ばかりむさぼり、あたしを溺れさせてはくれない。
 焦るほどに歓びは遠ざかり、あとに残るのは虚しさだけだった。


 きっと浦島は違う。
 あたしを溺れさせてくれそうな気がする。

 あのことに経験の有無は関係ない。
 早くに女を知り何人も抱いてきた者の行為が粗末なものであったり、初々しい若者が誰に習ったわけでもなく細やかな動きをみせることもあるのを、あたしはよく知っている。

 浦島の物腰や手の動きを見ているとわかるのだ……たまらなく、体の芯が熱くなってくる。


 こんなにずっと眺めているのに、うかつに誘うこともできない。
 まるで小娘のように恋う気持ちと、交わりたいという雌の本能を、あたしは持て余していた。

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