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貴方だけに溺れたい
第5章  枷

ファンデーションで隠した目の下の隈。
耳の位置で束ねたポニーテールと前髪。
30分近い井戸端会議から着たままでいるトレーニングウェアは、汗臭くなってはいないか。

一通りの確認を済ませた葵は、メイク道具と鏡を入れたバッグを後部座席の足元に押し込むと、急いでヒップバッグを持って車から降りた。

『明日は西側の林道に居る』

別れ際にそう教えてくれた森川の言葉を思い出しながら園内の入口へと目を向けると、昨日と同じ位置に停まった白のSUVに心なしかホッとする。

会えるという事は分かっているのに、なかなか見付からずに林道の中をさまよい歩く自分を想像してしまうのは、自虐的な思考を引き摺っているせいだろうか……。

ヒップバッグを腰に装着しながら歩き始めた葵は、全身に絡み付く憂鬱な空気に気持ちまで侵されないように、両手で頬を叩きながら園内へと向かった。

森川の存在や彼と過ごす時間に救いを求めてはいても、彼自身に救いを求める気持ちは無かった。

彼を前に自分の結婚生活を嘆くつもりも無いし、愚痴も言いたくない。
話したところで彼には無関係な話だし、困らせるだけだという事も分かっているが、何よりも、葵はそんな情けない自分をこれ以上知られたく無いのだ。

森川の前では、本来の自分でいたい。
馬鹿ではあるけれど行動的で、明るい自分でいたかった。

園内は蒸し暑くはあるが陽射しが弱い為か、奇声をあげながらボールを投げ合う子供達やママさん達、のんびりと散歩をする人の姿が多く見られた。

昨日のシダレザクラの傍には、今日は一組の老夫婦だろうか。
枝を見上げる女性の隣で、男性が幹を指差しながら何か話している様子だった。

話している声までは聞こえるわけも無いけれど、葵はその光景を眺めながら、ふと森川がよく幹に触れている事を思い出していた。

仕事中は当たり前の事ではあるけれど、初めて会った時も昨日も、彼はよく傍にある木に手を伸ばす。
それが癖なのか、習慣なのか、はたまた"挨拶"なのかは分からない。

けれど彼が手を伸ばす度その先を目で追っていた為か、葵は森川の手の形をよく覚えていた。

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