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貴方だけに溺れたい
第7章 貴方に逢いたい
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しかし葵は過去の男性経験において、ダメージが少なかった為に学習もしていなかったのだ。
話を合わせる事なんて簡単だ。
理解しているフリなんていくらでも出来る。
悪意など無くても、目的を叶える為なら、無意識にもそうしてしまうだろう。
ただしどんなに繕ったとしても、"綻び"は必ず表れるものだ。
葵が気にしないようにしていた違和感は、智之の言動によるものだった。
例えば共通の趣味であるはずの映画であっても、智之は葵の薦める映画を『観る』と言っても、感想など話した事も無かった。
葵の話を聞きながら共感するように相槌を打つが、自分からは何も話さず、更にその内容を忘れている。
しかしそれらはほんの"些細な事"だと思っていた。
葵からすれば智之がどんな映画を観ようが、どんなジャンルが好きなのかなど気にする事では無く、会話の内容を忘れる事なんてよくある事だとも思っていたからだ。
それに葵はもともと話をする事が好きだったから、自分の話を聞き共感してくれる智之に対して、いつの間にか親近感を感じ始めていた。
要は自分にとって、都合の良い見方をしていたのだ。
些細な違和感に気付かないようにして、自分が"独り"にならないように妥協して、本心から目を逸らしていたのだ。
それに、智之は葵を騙していたわけでは無い。
相手の話に合わせたり、共感する事が正しいと思う価値観を持っているだけ。
そして争いを好まず、他人の反応を気にして生きているから葵に合わせてくれていたのだ。
しかし現在、葵はそんな些細な事に妥協してしまった自分に後悔している。
付き合っている段階では許される事でも、夫婦となれば小さな綻びを見付ける度に不信感が増えていく。
"結婚して下さい。幸せにするから"
"俺が葵を守りたいんだ"
"二人で暮らすようになったら、休みの日はのんびり映画観よう"
"子供は二人欲しいね。葵に似た娘がいたら、過保護になりそう"
"俺は優しいよ。それくらいしか取り柄無いし"
勿論、智之の発言のすべてを真に受けたわけじゃ無いが、漠然とした意志で結婚を決めた自分の失敗である事は確かだ。
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