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貴方だけに溺れたい
第8章 根底にあるもの
「……太った事ですか?」
「あ、何となく疑問に思ったので」
「あぁ……なるほど……」
案の定、森川の反応は微妙だった。
葵の躊躇いがちな口調に、深刻さを感じていたのだろう。
それまで構えたように眉間を寄せていた彼は、どこか拍子抜けしたように苦笑を浮かべた。
けれど葵自身は、単純に話題の軽さを確信した程度だ。
それでも"無難"ではあるし、この話題なら普通に会話が出来そうな気がする。
ただ人の容姿に関する事だし、もしかしたら失礼な質問だったかもしれない?
森川の苦笑を横目に見つつ若干の不安も無いわけでは無かったが、その不安はあっさりと払拭された。
「あるよ」
「えっ!?」
「だいぶ若い頃だけど」
「…………」
「なんなんだ、その反応は?」
しかし聞こえた返答に驚いたのは当然だった。
自分から尋ねた事ではあるけれど、もともと森川には"肥満"というイメージが無かったからだ。
身体の作りからして常に運動をしているのは分かるし、精悍な顔立ちだからか怠惰的な印象は全く感じない。
その為、思わず口を半開きにして彼を凝視してしまったけれど、寧ろその方が質問よりも失礼。
急いで「ごめんなさい!」と顔を隠したけれど、間抜けな顔も含めて失敗だったと思う。
「意外だったので……」
「そう?」
「はい……あの、でも、やっぱりストレスとかで……?」
けれど、焦った状況でも続く言葉があったのは、自身の経験があったからだ。
「いや、どうだろうな……ストレスが無かったとは思わないけど、俺の場合は殆ど習慣かな。
それまでボクシングやってたんだけど、目を故障して辞めてね。それから暫くの間は制限の無い生活を謳歌してたから、気が付いた時には筋肉が落ちて体脂肪がえらい事になってた」
「……ボクシングやってたんですか?」
ただ軽くて無難な話題のつもりではあったけれど、その返答には若干の重さを感じたのは言うまでもない。
「うん。大学3年まで」
淡々と答える森川には、そんな暗さは微塵も無いが……。