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貴方だけに溺れたい
第3章 屈辱と悪夢
"話さない"なんて事は絶対にあり得ない。
森川にとっては秘密にするような事でも無いし、仕事の話になれば森林公園の話題になるのは当然の事だとも思う。
公園の事を知られる事は構わないのだ。
寧ろ此処からそう遠くも無いのだから、智之達は名前くらいは知っているとは思う。
しかしその場所に自分が行っている事は知られたく無い。
あの公園は、葵にとっては特別な場所なのだから。
けれど、もう無理なのかもしれない。
森川の人柄は、葵の知っている限りでも気さくで社交的なのだから、隠しておく理由が無い限り、言わない可能性なんて無いのだと思う。
それならもう、仕方がないのか……。
葵は手元のビールに視線を落としながら溜め息を吐いていた。
分かっているのだ。
こうやっていつも、自分だけの場所が無くなっていく。
今回が初めてじゃ無い。
何処に行っても、何処を歩いていても、後から義両親や智之に聞かされるのだ。
『葵ちゃんを○○で見掛けたって、××さんが言ってたよ』とか、出掛ける時に何処かで見ているのか、服装や髪型の事まで知っている人もいる。
覗かれている、干渉されている、詮索される、噂をされる。
それが嫌で車の免許を取ってから職場を変えた。
深澤森林公園はその職場までの道沿いにある看板を見て知ったのだ。
それからは誰も自分を見ていない。
少なくとも、そんな話を聞かされる事も無く自由だった。
そして今日、あの場所で森川と出会って、心の底からあの場所を知って良かったと思ったのに……こんな結末があるなんて、思いもしなかった。
でも結局は、こういう事だ。
私はとことんツイてない……。
しかも、数時間前には"ちゃんとしてた"メイクも髪型も、揚げ物やら料理をしているうちに崩れてボロボロ。
午前中、森川と向き合っていた自分よりも酷い状態になっていた。