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貴方だけに溺れたい
第4章 秘密
怒らせるような事を言った覚えは無いが、はっきりとしない自分の態度は自覚している。
けれど"たったそれだけ"の事で、怒ったりなんてするのだろうか?
無言のままキーを回し、エンジンを止める森川の動作を視界の隅に捉えつつ、葵は気まずい心境を抱えたまま状況の悪化を感じた。
しかし森川の仕草や口調には"怒り"や"苛立ち"を示すような荒っぽさは無く、ただ葵自身の気持ちが彼の言動をネガティヴなものに捉えさせているのも確かだった。
どうしょう。
納得はいかないけれど、肝心の話を切り出す為には早急に謝るべき……?
キャップを外す森川の気配を感じながら逡巡する。
そんな葵に対して、森川からはどこか躊躇うような声が聞こえた。
「さっきから挙動不審に見えるのは、俺の気のせいかな?」
「……」
その言葉にドキリとしたのは言うまでもない。
"さっきから"というのは、"今"では無いという事は確かなのだけど、葵はハッとした瞬間に森川を見ていた。
微かに眉をひそめた、口調と同様の困ったような表情。
しかし不思議とその眼差しは鋭く野性的で、葵は動揺を感じながらも、その明るい茶色の瞳に魅せられそうになった。
ただ、このまま沈黙でいられるはずもない。
自分では平然としていたつもりでも、気付かれないわけが無いのだ。
森川の態度が自然過ぎて違和感を感じていたけれど、漸く腑に落ちた気持ちでもあった……。
「ちょっと……ずっと気になっていた事があって……」
だけど本当に、最悪なタイミングなんだけど……。
葵は無意識に森川の視線を割けるように俯いていた。
しかし気持ちの中では、絶対に深刻にはならないように話すつもりではあったのだ。
「森川さん、公園で私と会った事…………出来れば秘密にして頂けませんか?」
急に"確認"を省略したのは、完全に逃げ腰だったからではあるが……。