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貴方だけに溺れたい
第5章 枷
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市街地を抜けて暫くすると、昼間入った弁当屋が見えてくる。
葵自身は初めて入った店だったが、森川は公園の管理人から聞いて、土曜日から連続で利用していると話していた。
その時に秋山家に宿泊している事を話してくれたが、概ね多代が話していた通りだった。
ただ本人はあまり乗り気では無かったらしく、叔父の熱烈なラブコールが無ければ、ビジネスホテルを利用しながら東京から通うつもりだったと言う。
"叔父の熱烈なラブコール"という冗談めいた表現に、葵はあの秋山に対するイメージを思い浮かべて違和感を感じたが、どうも身内に見せる顔は違うらしい。
森林公園に続く道に入ると、後は暫く雑木林と畑に挟まれた県道が続く。
途中の脇道に入ると公園の敷地に続く林道があり、その途中で車を停めて彼と話をしていた事を思い出す。
通り過ぎる直前にその道を見たが、今は真っ暗な空洞のようで、その先は何も見えなかった。
しかし昼間のあの時間を思い返すと、なぜだか森川のあの目ばかりが脳裏に浮かんでくる。
明るい茶色の瞳。
初めて会った時も、家の窓から話した時も何も感じなかったはずなのに、どうして今日になって意識し始めたのだろうと思う。
目線が近かったから?
森川の瞳があんなに明るい茶色だった事も知らなかったし、穏やかなイメージしか無かっただけに、あんな鋭い視線を向けることも意外だった。
でも、不思議と恐くは無い。
それどころか、ずっと見つめられていたいと思うような、ドキドキするような昂りをも感じていたように思う。
しかし葵は、その感覚だけは敢えて考えないようにしていた。
とはいえ自分の住む家が近付けば、意識せずとも森川との記憶は遠退いていくものだ。
常夜灯だけが静かに佇む、ひっそりとした集落。
たとえその中の一軒に森川が居るのだと分かっていても、葵は薄暗い道を見つめながら無意識に溜め息を吐いていた。
早く明日になればいいのに……。
思う事はそれだけだった。
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