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貴方だけに溺れたい
第5章 枷
「ただいま」
「おかえり」
部屋に入ると、智之はソファーに寝転んだままテレビを観ていた。
いつもと同じ光景だ。
カーテンは閉まっていても雨戸は閉めていない。
窓際に置いた洗濯物を干したラックも、朝と同じ状態のまま置いてある。
もういい加減、文句を言うのも期待するのも馬鹿馬鹿しくなってはいるが、共働きなのだから、日が暮れたら雨戸を閉めるくらいの事はして欲しいと思う。
ただでさえ庭側は虫が多いのだ。
夜になれば家の光に誘われて来た虫達がガラス窓にびっちりと張り付いていて、後から雨戸を閉める時には外に出てそれらを払わなくてはならない。
取り合えず智之がお風呂に入る前にやらせれば良い話だが、いい加減、学習して欲しい……。
芸人ばかりのトーク番組に笑い声を上げている智之を横目に、葵はミュールとバッグを持って寝室へと入った。
「健ちゃんのところから胡瓜貰ったってお袋が持って来たから、キッチンに置いておいたよ」
「あ、そうなんだ。ありがたいね」
「うちでも採れるんだけどね」
「この前のお礼で持って来てくれたんでしょう?気にしてくれてるんだから、いちいち難癖をつけるのはやめなさいよ」
「俺が言ったんじゃないよ。お袋がそう言ったの。葵、その言い方オバサンぽいよ?」
「……あっそ」
Tシャツとジャージに着替え、智之と雑談を交わしながらキッチンに入り、自分の分の夕食の準備をする。
ハンバーグを電子レンジに入れてから、宮本家から頂いた花付き胡瓜を1本だけ取り、残り5本を冷蔵庫にしまった。
おそらく明日、多代から宮本家に茄子かピーマンを持って行くように頼まれるだろう。
野田家と宮本家に限らず、この近所ではたまにこういった"押し売り合戦"が行われている。
好意なのか見栄の張り合いなのかは知らないが、品物を届けるのは大概、各家庭のお嫁さんなのだから勘弁して欲しい……。