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Leverage Effect〔レバレッジ イフェクト〕
第2章 罠 ─仕掛ける─
ここで飛ばせなくても、資金繰りに困るわけではないが、一応の天井を打った展開は否めない。暫く商いは低迷するだろう。
ボードを見詰める澁谷が、小さく舌打ちする。
件(くだん)の理知的な顔立ちが微かに曇るのを見ながら、今しがたの客の約定伝票を手に澁谷の横に立った。
「通ればリーチ根拠無し…ご愁傷様」
指値(さしね)された例の株が売り切れなかったことは先刻承知だ。
そのように仕向けたのは他ならない自分の客であったのだから…
──余計な入れ知恵をするからだ。
トソーのTOBを阻んだおまえが悪い。
敗北感を味わう下々の気持ちが少しはわかったろ。
電話に呼ばれてその場を離れる間際、メモを挟んだ業界紙を澁谷に渡した。
メモに目を遣る澁谷が僅かに唇を噛んだのを、不敵な嗤(わら)いを浮かべて横目で確認する。
そこには、”今夜軆(からだ)を空けておけ”と一言。
メモは澁谷の手の中で握り潰されて、人知れずゴミ箱へ捨てられた。