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シミュレーション仮説
第2章 神を信じた男
 この世界はシミュレーション世界だ。
 俺を中心に生まれた仮想現実世界だ。

 俺が産まれた時にこの世界が作られた。そして俺を中心に世界は広がった。

 例えば今朝、駅前ですれ違った女子高生。髪の長い大人しそうな少女で俺の好みだった。

 しかし彼女も作られた存在だ。『駅前に誰もいないと俺が不自然に思うから、そうならないように駅前で俺とすれ違うために作られた存在』だ。

 電車の中でも駅から撮影スタジオまでの道でも、同じ理由で作られたたくさんの存在と出会う。

 全ては俺にこの世界がシミュレーションの中の世界だと気付かせないため。

 この世界で俺が行ったことのない土地、通ったことのない道、開けたことのない扉の内側。
 そこはまだ作られていないのだ。

 俺がそこに着いた瞬間にそれらは作られる。今はそこにそれがある、という『設定』だけが存在しているだけだ。

 何故ならその『設定』がないと俺が不自然に思うから。

 宇宙なんてない。俺がまだそこに行っていないから。
 過去の歴史なんてものもない。この世界は俺が産まれた二十八年前に作られたのだから。
 ただ大昔から続く宇宙の歴史、人類の進化の歴史、という『設定』のみがある。

 しかし俺はこの世界がシミュレーター世界だと気付いた。こんな世界が作られた理由までは知らない。
 何かの研究かどこぞのマッドが面白半分に作ったか。

 どんな理由にしろ俺はきっと監視されている。

 俺が役者として人並みの生活が出来る程度には仕事がありそれ以上にならないのは、そうなることがプログラマーにとって都合が悪いのだろう。
 なんだかんだで仕事が入って来て金に困らないのは、この世界を作った『神』の希望か、配慮か。

 つまり俺は監視される代償に生活と安全を『神』によって保証されているのだ。
 そして、そうやって俺のために作られた世界に生きる住人は俺のために作られた存在だ。

 つまり、何をしてもいい。

 俺が世界の中心で、俺には『神』がついているのだから。
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