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シミュレーション仮説
第2章 神を信じた男
 一人過ごす夜。信二は突然思いつく。まるであの日、この世界がシミュレーション世界であると気付いた時のように。
 
 あの女達も、俺のため作られた存在のはずだ。
 俺に犯されるために作られた。

 では、その後は?

 犯された後、あの女たちはどうなる?

 いや、あの女達以外もだ。

 駅ですれ違うために作られた、あの女子高生は?
 俺とすれ違った後どうなる? どうなった?

 もしも本当にこの世界が俺のために作られたとして、周りの人間はそのために作られたのだとして。

 俺に犯された後、駅ですれ違った後、あいつらはどうなったんだ? 消えてしまうのか?

 もし消えていなかったら…?

 もしも消えていないのならば行くべきところに行き、会うべき人に会い、帰るべきところに帰ったはずだ。
 それを成立させるため、行くべきところが作られ会うべき人が作られ、そして帰るべき場所が作られる。

 俺にこの世界を不自然に思わせないのようにするのと同様にそいつらの生活が作り出されていく。
 そこから世界は広がり人が増え、さらにまた世界は広がっていく。

 そうやってどんどん広がる世界において、自分はもう中心足りえないのではないだろうか?

 本当に俺が世界の中心だったとして俺のためにこの世界が作られたのだとしても、そこまで広がってしまった世界ではもう自分の存在などちっぽけなものでしかないのではないだろうか?

 俺が世界の主役だと思い込んでいたように、俺のために作られたあいつらにも自分の人生があり、その人生を自分を主役に生きていく。

 つまり俺は他人から見れば脇役であり、それではやはり俺は世界の中心ではない。

 他人は他人でしかない。他人だがそいつ自身にとっては代わりのいない主役だ。

 ということはつまり、俺が好きにしていい『道具』ではない。

 歪んだ思考ではあるものの、信二はようやく他人と世界の重さを取り戻していた。

 しかし、もう遅かった。

 窓にはまった鉄格子。信二は服を脱ぐと細く縛り上げ、それを鉄格子に結んで輪を作り、そして自分の首をそこに差し出した。

 オレハ、カミニ、マモラレテイル。
 コレカラ、カミノ、セカイニ、イク。
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