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サイドストーリー8
第5章 セカンドラブ
「確かに、池田はしおりだけど、その記憶がない以上『池田』だ」
「・・・」
「付き合いだしたきっかけとか、俺たちがどんな夫婦生活を送って来たかとか
それは俺と『しおり』の二人だけの大切な思い出なんだ」
「・・・」

「記憶が戻る手助けを拒んでいるんじゃないよ」
「はい・・・」
「ふたりの思い出はふたりだけで大事にしたいんだ」
「はい」
「例え『池田』でも話せないな」

少し困ったような、少し自慢するような・・・
そんな顔で、奥さんの『しおり』との時間を秘密だという山本主任。

「主任・・・私」
「ん?」
「今は、思い出せないけど。嬉しかったことも、きっと喧嘩したことも。
今は思い出せないけど」
「うん」

「『今の』私がヤキモチを妬いちゃうぐらい、ふたりは仲がいいんですね」
「あ・・・ぁ」

「主任と結婚出来て、幸せです」

「―――そう、言ってくれて嬉しいよ。ありが、とう」

主任は会社の顔とは全く違う顔で
悲しそうな嬉しそうな顔で、泣きそうだった。

私を抱き寄せようとした手が空中で止まった。

「私、記憶が戻っても今惚気ていた主任を忘れません」
「あぁ」
「私を愛してくれてありがとうございます」

その記憶がないことだけが悔しかった。

私は空気を変えるために食器を持って立ち上がった。

「主任、片づけている間にお風呂入ってきてくださいね」


END*****

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