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この前、人を拾いました
第55章 ⑥―5 10th Birthday
皮肉だ。
礼二はあまり自分のことを話すタイプではない。
何を考えているかも兄である私でさえ分からない。
だけど、きっと辛かった…いや、今も辛いのだと思う。
こんなにもみんなが母の死に涙していた過去。
そして何より、礼二自身、何も知らずに、誕生日を喜び、祝われていた事。
人の過去が視えるようになってから、それがどんどん辛くなっていったんだと、私は思う。
もちろん誰も礼二が悪いだなんて思っていない。
母の死が悲しいかったのは事実だが、礼二の誕生が喜ばしかったのも事実だ。
父はそう何度も礼二に言い聞かせた。
だが、
「──みんなの過去が嫌でも視える。そんな中祝われても……辛いんです。」
礼二がそういうと、誰も何も言えなくなってしまった。
それ以来、礼二の誕生日を祝うことは無くなった。