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愛されたいから…
第12章 イルマと南郷
その後の俺は和也を忘れる為だけに必死に仕事だけをしていた。恋愛なんかもうどうでも良かった。入社4年目には編集長になれるくらいまで俺は自分の実績だけを積み重ねて来た。

そんな俺の実績なんか全てどうでもいいと今の俺に思わせたのがイルマだ。人生にヤケクソで仕事ばかりの俺に高校の時からの悪友である、高橋 豊が

『うちの大学の学祭、ちょっと付き合ってくれよ。』

と言って俺を無理矢理に連れ出していた。豊は美大を出て今は建築デザイナーとして成功した男だ。

大学の学祭ねぇ…

と軽く考えていた俺は気分転換レベルでたまには豊に付き合ってやるかと美大の学祭へと豊と連れ立って行ってみた。

美大では豊が自分を学祭に招待してくれた教授を見つけてから

『俺に見て欲しい作品ってどこっすか?』

と聞いていた。教授は横柄な態度の豊に

『お前は相変わらず凡人のくせに根拠の無い自信だけは満々な奴だな。こっちだ。着いて来い。』

と豊と俺をある展示室へと促した。教授と歩きながら豊が

『なんか天才的な子の作品らしいけど、教授もどう扱ったらいいか困っている子らしい。』

と俺に今回の学祭にわざわざ来た目的を説明をして来ていた。俺はその豊の説明にあの頃の和也を思い出してしまう。

『この作品なんだが、どう思う?』

と教授がある作品の前で立ち止まりその作品をを指差して豊に聞いていた。猫と月…、そう書かれた題名の上に飾られた水彩に見える透明感のある油絵。そしてその作者の名前は如月 イルマとなっていた。

月が妙にリアルで立体的に描かれており、どことなく寂しげな表情の猫がその月を見上げている。だがその猫の毛の1本1本までもが細やかに描かれているこの作品は何故油絵にしたんだ?と作者に聞きたくなるような丁寧で繊細な作品だ。

『こんな繊細に油絵とかで普通は描くか!?』

と俺と同じ感想をわざわざ豊が叫んでいた。教授もやはり豊と同じ意見らしく

『そこなんだ…、時間は多分、人の何倍もかけてこれを描いてるんだが、問題はこの後は全く中途半端なものしか描かなくなってしまったという天才なんだ。』

と言ってため息をついたから豊は

『自分に自信とかないのか?作品も有り得ないくらいに繊細で、でもどこか控え目で…。』

とそんな教授に意見をするのに微妙に悩んだ顔を教授に向けていた。
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