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愛されたいから…
第12章 イルマと南郷
芸術的な専門の話しは俺はわからない。だがなんとなく俺は

『でも、これ…、俺は好きですよ。ちょっと欲しいとか思ってしまう。』

と言っていた。教授は俺の素人の意見に対してあくまでも生徒を想う教授らしく

『私もそうは思うんだが、人に欲しいと思わせるだけの作品を描ける子なのに、この子はもう自分には描けないと思い込んでしまっている。しかも親が有名な漫画家でちょっと漫画が描けるからと将来は親のアシスタントをすればいいとか言っていて自分の才能を全く理解しようとしないんだ。』

と困った顔をしたままだった。豊が単純に

『じゃあ、龍平がこの作品を欲しいって言っているとその子に自分の作品を欲しがる人間がいるって自分の価値観を教えてやるとか?』

と教授に言っていた。教授は

『その程度で自信がつく子とは思えないが、一応は言ってみるよ。』

と言ってくれた。それから3ヶ月ほどして俺の手元には猫と月がやって来た。何度見ても寂しげな猫になんとなく愛着が湧いて来るいい作品だった。

繊細で美しく控えめで邪魔にはならない。だけど、存在感だけはしっかりと感じさせるその作品に俺は和也の事は忘れたように引き込まれていた。

俺の家に遊びに来るたびに豊も

『やっぱり、いい絵だよなぁ…。』

と猫と月を必ず眺めるくらい間違いなくこれはいい作品だった。あの後の教授の話しだと、俺以外にもこの作品を欲しいと言う人間は何人もいたらしい。

だけど、作者であるイルマ本人は

『なら教授に差し上げます。』

と言って自分の作品に対する賛美には全く無反応だったと教授が嘆いていたらしい。豊は

『天才って奴は凡人の俺らとは感性が違うから扱いにくいよな。』

と俺に言って来る。和也もその天才って類いの奴だった。だけど和也とは違ってイルマは自分で自分の天才を認められずに苦しんでいるように俺は感じていた。

しばらくして、出版社では新人応募に大型新人が出たという話題で盛り上がっていた。少女漫画で親は大先生だという七光り先生だが、さすがと言わせるだけの作品だと噂が広まっていた。

それは如月 るいという名でのデビューだったがその作品が載った製本を見た時に俺は猫と月の子だとすぐに理解した。繊細で丁寧で綺麗な完成度の高い作品、そしてどこか控え目で大人しくて寂しげなラブストーリーという作品。
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